2019/08/21

Loden Coat ローデンコート

連日暑い日が続いておりますが、洋服屋ではもうすぐ秋冬のシーズンが始まろうとしております。

ここ数年新たなアイテムのサンプルがなかなか作れずにおりましたが、今回久々にコートのサンプルが完成致しました。

「Loden Coat」
ローデンコートです。


ローデンコートとは、オーストリアとイタリア北部に跨るチロル地域で狩猟用に着られていたコートで、その地域で織られたローデンクロスを用いたコートです。
今回作ったモスグリーンが代表的な色で、森の中で着るものですからグリーンなのでしょう。




形としてはAラインのステンカラ―コートなのですが、随所に特徴があります。

では、ディティールを紹介していきます。


まずは肩、袖付けです。
この作りは非常に特徴的で、通常のコートやジャケットなどは身頃のアームホールに袖を裏側から縫い付け、ひっくり返して表に返すというような縫い方なのですが、このローデンコートは違います。
ローデンコートの一番の特徴である肩部分の張り出し。この張り出しと次に出てくる脇下の縫われていない部分があることにより、通常の縫い方と異なった縫い方になります。
あまり詳しく書いても専門的過ぎるので割愛致しますが、非常に新鮮でした。
肩周りのステッチは強度を保つ意味もあり2重です。


上でも触れましたが脇下は袖と身頃がくっついていません。
これは中に重ね着をして着た時でも、銃を打つ際の動きに制限がかからないためだそうです。
通気性を良くする意味もあるかもしれませんね。

ポケットより後ろ側にある脇縫い目が一部空いております。
これはボタンを閉めたままでも中に着たジャケットのポケットのものを取ることが出来る仕様です。トレンチコートのポケット内部にも同様の穴がありますが、こういうさりげない実用的ディティールはグッときます。

袖は3枚切り替えでタブ付きです。

背中心に、肩甲骨の下辺りから裾までインバーテッドプリーツが入ります。
これも動きに対応したディティールです。
このプリーツが入っている事により、かなり強烈なAラインに見えます。

前身頃裏側は通常大身返しのみで裏地は付かないのですが、当店の仕立てでは裏を付けました。背は半裏仕様です。



襟周りです。
ステンカラ―ですが、通常より衿腰高めに設定しております。
また、襟にスロートタブ(襟を立てた際に前を留め付けるストラップ)が付くものもありますがサンプルでは付けておりません。タブを付ける場合襟はもう少し小ぶりにした方が良いですね。



第一釦を留めずに着るのもありです。


そして、このローデンコートに欠かせないのがローデンクロスです。
ローデンクロスはウール生地に縮絨をかけたメルトンのような生地で、防寒・防水性に優れた生地です。
ローデンクロス自体あまり見かけないのですが、今回サンプルに使用したローデンクロスはモエスマーのローデンクロスです。こちらはウール100%・540gmで色はグリーンとネイビーがあります。


また、昨年の秋冬よりローデンクロスに特化したメーカーの取扱いが始まりました。

ローデンクロスのメーカー「ライヒットフリード」のローデンバンチです。
ライヒットフリードはオーストリアのウール毛織物メーカーで、柔らかく上質なローデンクロスを作っています。

ラインナップも様々で、こちらは360gmのジャケット用ローデンクロスシリーズ。
ローデングリーンはもちろんですが、グレーやネイビー、ボルドーなどもあります。

そしてまさにのコート用ローデンクロス。
ウール80%・アルパカ20%で目方は540gmです。
黒、ネイビー、グレー、グリーンとあります。

最後の3枚はダブルフェイスです。表と裏の色が違う生地で、単衣仕立てにした際に裏の色も楽しめます。
ウール100%・640gmです。



今回作るにあたって色々なローデンコートを見て研究しました。特に参考にしたヴィンテージのローデンコートは本当にカッコよく、作りも頑丈で素晴らしいものでした。
それらを踏まえ、細かなディティールはヴィンテージのものを踏襲し、しかし手仕事からなる柔らかさや仕立て服としての上品さを出したく、全てハンドステッチにしております。そしてもちろん毛芯1枚の軽い仕様です。
これにより、サルトリアイプシロンの解釈としてのローデンコートが出来たのではないかと思います。


では、なぜ今回ローデンコートをラインナップに加えたかといいますと、7年程前にカチョッポリ(モエスマー)のローデンクロスを見た船橋が作りたいと言い、生地を購入しました。しかしその後なかなか作れずにいたところ、昨年ライヒットフリードのローデンバンチの取扱いを機にローデンコートへの熱が再燃したという次第です。
ただ、昨年も結局途中まで作り間に合わず断念、今年やっと完成と相成りました。

そもそも船橋はなぜそこまでローデンコートに想いを馳せていたのかというと、ちょうど船橋がローマに渡った80年代前半、サルト達は皆ローデンコートを着ていたそうです。
特に船橋が慕っていたペレグリーノというサルトが着ていたそれが特にカッコよく、その印象がずっと頭に残っており、いずれローデンコートを作りたいという思いがあったとの事です。


という訳でまさに40年越しのアイテムであるサルトリアイプシロンのローデンコート、店頭に飾っておりますので是非お越しいただきご覧下さい。


※ローデンコートのお仕立てに関しては、BuonoとDistinto という縫製ランク分けをしておりませんので、価格に関してはお問い合わせください。



サルトリアイプシロン Sartoria Ypsilon

東京都中央区日本橋本町4-7-2 ニュー小林ビル3階

03-6225-2257

info@sartoriaypsilon.jp